ご免侍 七章 鬼切り(八話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
八
「おうおう、仲が良いですな」
殺気は無かった、頭に金色の輪をつけた金鬼がにやりにやりと笑っている。鎖帷子をつけてゆっくりと近づいてくる。
刀を足下に落ちている、拾うひまがあるのかわからない。金鬼は、無刀で敵を倒す相手だ。それだけ素早い動きができるし、全身のすべてが武器になる。
(俺はなにもかも覚悟が足りない)
琴音を助けるなら常に気配りをしなくてはいけないのに、それすらできない。愚か者で役立たずだ。
金鬼は、ただ立っているだけで襲う気配が無いのが不思議に感じた。琴音を抱きしめた腕をゆっくりと離すと金鬼と対峙する。
「なぜ琴音を狙う」
「なに助けたいからですよ」
意外な答えに一馬は疑念を感じたが、確かに琴音を無理に奪おうとしているが、傷つける真似はしていない。
「助けてどうするんだ」
「贄を奪う事で、国を混乱させたいんですよ」
「――なんだと」
「贄は、神聖な娘でなくてはいけない。その贄と交わる事で、神に近ずく。それが上の連中の考えです」
「琴音を嫁にするのか」
「少し違いますが、同じでしょうな」
金鬼が近づく、腕を伸ばして一馬を狙う。
「琴音殿を渡してください、こちらで幸せに暮らせる場所に案内しますよ」
「お前の言うことを信用しろと」
「私は別にどちらでもいいんですよ、でもあなたは、琴音殿が好きだ。それなら一緒に私たちのところで暮らせば良い」
甘言だと判っても心がゆれる。頭の中で琴音と幸せに暮らす自分を思い浮かべる。
火縄の臭いを感じると、とっさに琴音を抱えて地面にふせる。ドンッっと大きな音がして火縄の白い煙が見えた。
「旦那、大丈夫ですか」
山賊の権三郎が近寄ってきた。猟師の彼は動物を仕留めるために気配を消すのが上手だ。だが金鬼の姿はどこにも無かった。