ご免侍 八章 海賊の娘(二十五話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
二十五
一馬の父、藤原左衛門は、手のひらで一馬の胸に衝撃を与える。盲点のように一馬は父親の動きを意識の外に飛ばしていた。味方であると今でも信じていた。
「うむ……」
肺から空気が抜ける、息ができない。重い一撃は一馬の動きを止めた。
「一馬」
「一馬殿」
露命月華と兵次郎が、あわてて駆け寄る。藤原左衛門と露命臥竜はいずこかに姿を消していた。
(琴音を助けてくれ)
そうは思っても声すら出せない、息ができないので顔色が青く変色する。いきなりくちづけをされると、月華が息を吹き入れる。もがくように彼女から空気をむさぼる。顔色が戻ってきた。
一馬は、ゆっくりと砂浜で横たわり天空の星をみる。おそろしい程の光のつぶが見えた。
(俺は、もう死ぬのか……)
「ほら起きろ」
「月華、あんまり無茶すると」
ぐいっと上半身を起こされると、ベチベチと頬叩かれた。
「痛い痛い、わかった」
「琴音を助けるんだろ」
そう言われると体が自然と動きます。砂浜に足をとられながらも走れるようになる。海賊の村上主水の屋敷に到着すると、人であふれて屋敷内に入るのも苦労した。
「琴音」
「どうしました」
「今、父上が」
「ええ、一緒に出て行かれました」
権三郎が不思議な顔をしながら、大きな体の侍と一緒に、雄呂血丸とお仙が琴音を連れて外に出たと教える。
脱力したように畳に座り込む……琴音が、父親の藤原左衛門に拉致された。
「馬鹿な、なんでこんな事に」
畳に頭を何度も打ちつける一馬を権三郎が、必死に止めている。月華も部屋に入るなり、畳に崩れ落ちた。海賊の屋敷で、みなが迷っていた。