
SS 投影【記憶冷凍】#毎週ショートショートnoteの応募用
「ばっちぃ」
私に触れないようにクラスメイトが避ける。髪が長くクシをいれてないせいか不潔に見えたと今では思う。
「スタンバイお願いします」
スタッフに呼ばれてパイプ椅子から立ち上がる。私の前に新人で小生意気な女が立っていた。
「身なりを整えて、だらしがない!」
「母さんには、関係ない」
冷たい記憶、記憶冷凍されたイメージが浮かぶ。私は彼女だ、傲慢できつい眼をした冷徹な娘。
「そんな態度だから嫌われるの」
「私が嫌われるだけ、あんたに関係ない!」
ふいに涙があふれる、台本にはない。
「……関係あるわ、あなたは私だから」
「……娘だから、関係はあるけど……」
新人の彼女は、いきなりのアドリブで戸惑う。演技ができない。
「そのままでいいの、誰からも愛されない」
「いいわ、これが私!」
新人の彼女は、しぼりだすように叫ぶ。
「カット!」
監督は私たちに近寄ると、笑顔で親指を立てる。
「良かった、本当に良かったけど、この後は台本通りで」
私はふふっと笑う。新人の彼女も、やさしい笑顔を見せた。