SS 神への……【音楽トリマー】#毎週ショートショートnoteの応募用
友人が音楽トリマーを目指していると自慢げな口ぶりで報告してきたが、まるで意味がわからないので、ただうなずいた。洒落た喫茶店で女給の持ってきた珈琲を口にふくみ、たずねる。
「音楽家を目指すのかね?」
「音楽トリマーだよ」
「なるほど、わからんが何をするんだね」
「真善美だよ、音楽を神に捧げるべく整える」
「ははぁ、つまり編曲家みたいなものか」
「まったく違う、音を愛し崇高な目的で整える」
やや神秘主義的な友人は熱の入った口調で、音楽トリマーのすばらしさをまくしたてていたが、私はただうなずくだけにした。当人が楽しいなら批判する必要もない。それからしばらくして友人は行方不明になり家族も警察も探していたが見つからなかった。
「やぁ、ひさしぶり」
「やぁ、どうしていたのだね?」
「これから即身成仏になるので箱に入るよ」
友人はすっかり痩せ細り片手に金剛鈴をもってチリンチリンと鳴らしている。美しい鈴の音は、確かにあの世に旅立つのに最適だろう。