SS ルールを知らないオーナメント #毎週ショートショートnoteの応募用
青い宝石の中で白い星に見える傷が無数にある。それがまるで銀河の恒星にも感じた。
「この白いものはなんですか?」
「ホウ素らしい……不純物が含まれている」
「それで複雑な輝きになるんですか……」
白衣の助手が拡大鏡の用意をしている。ふと助手がつぶやく。
「これが呪いの宝石……」
「そんなものは存在しない」
鑑定を頼まれた教授は、そろそろ二十世紀にもなるのに、呪いの話をされて不愉快に感じた。
彼の新案特許の『光学式増幅拡大鏡』は、とてつもなく微細に観察できる。レンズで何万倍も大きく見る事が可能だ。
「セットできました」
「反射鏡を調整してくれ」
教授が『光学式増幅拡大鏡』に目をあてる。青い宝石は等倍で美しい、鋼のネジをまわしてゆっくりと徐々に大きくなると白い星が見える。ホウ素の結晶だ。
「ん?」
さらに拡大すると、それは燃えていた。ゆらゆらとフレアが見える。太陽がある。
「なんだこれは……」
ネジを調節する、太陽の周りに惑星が見える。惑星を拡大すると海だ。都市も見える。もっともっと……建物の中で誰かが複雑な装置を使って何かを観察して……
「教授!」
彼はよだれをたらしながら血まみれの指でネジをまわしていた。
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「教授はどうしてます?」
「今は……病院です」
宝石商は助手から、青い宝石と鑑定証をもらうと装飾をほどこして売りに出した。教授の不幸の話が知れ渡ると、呪いの宝石として値段がつり上がる。今では巨額の価値がついたルールを知らないオーナメント(装飾品)として有名だ。
宝石の中で何が見えたのかは、もう伝わっていない。