SS 肌に触れる風の色 【#風の色】#シロクマ文芸部参加作品
「風の色なんて無い……」
クラスメイトの律子は自殺した。彼女はずっと風の色の事を気にしていた。ぼんやりと学校の屋上から空を見上げると、秋の空に高く白い雲が流れていた。頬を風がかすめる、やさしくなでるように……
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「風の色が見えるの」
「なんそれ?」
たまに理解できないことを言う少女だった、律子は孤立しがちで友達も少ない。群れるのが嫌いな私と相性が良かったので、一緒に居る事が多かった。一緒に居るだけで何をするわけでもない。
「空を見るでしょ? 風が吹くとね、しゃぼんみたいに光るの」
「わかんね」
「ふわふわって感じで、肌に触れる感じ」
「ふわふわねぇ……」
他人には理解できない感じ方をするのは共感覚と言われていた、音が色に見える人も居る。
「それでね、あなたと一緒にいるとポカポカするの」
「はぁ……あたしがあったかいと?」
「あったかい、あったかい色をしているの」
律子は、普段は真面目で勉強ができるのに、人と会話するとこんな状態なので馬鹿にしていると勘違いされやすい。
(あいつ、ふざけやがって)
(なにがポカポカだよ)
しばらくすると律子は、風の色が変わったと私に告げた。
「風の色がね、赤いの」
「ポカポカなのか?」
「いいえ、空が赤く歪んでいる感じ」
「なんか嫌だね、それ」
「だからね、逃げて」
「え?」
「街を出て遠くに」
「遠くってどこに……」
律子は、すがりつくように私の胸に顔を埋めた。泣いているように見える。次の日に、私と律子が恋人関係だと噂された。誰かに見られたのかもしれない。
(女同士で)
(女同士で)
(女同士で)
風の色が見えない私にも感じられる、タブーを許さない常識と嫌悪感。正常でなければ生きてはいけない。人一倍、敏感な律子は耐えられなかった。川に流された彼女が河口で発見され、表向きは水死だが自殺したと信じられた。
私は……苦しかったけど、耐えて学校に通った。誰も私に触れてこなかった。慰めもいたわりもない世界。
(なんで……こんな事に……)
学校の屋上から降りて彼女が死んだ場所に花を手向けようと思うと、放課後をまたずに花屋によって電車に乗った。河口近くの一角に花が置かれている。こんなさみしい場所で死んだかと思うと涙がぽつぽつと落ちる。
「ごめん……ごめんね」
何を謝るのか判らないまま空を見上げる。何か白いモノが飛翔していた、まばたきを一回するうちに視界から消えると、校舎に向かって落ちる。同時に轟音と巨大な噴煙が立ち上がる。
遅れて台風よりも強い衝撃波で体が飛ばされた、気がついた時には天空は真っ赤に燃え上がり、自分の住んでいた街が消滅している。頬を風がかすめる、それはとても熱く肌を焼く。
(律子……ここまで連れてくるために……)
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「某国の大型爆撃機が自衛隊と交戦後に落下墜落しました、某市は壊滅です、近隣のみなさまは退避を、至急に……」
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