ご免侍 五章 狸の恩返し(八話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をする。琴音を狙う四天王の一人は倒したが……
八
「それで、もぐもぐ、船大工が、もぐもぐ」
「もういい、食ってから話せ」
庶民じゃ滅多に食えないような、煮魚や煮物がある。黄色い卵焼きすらある。一馬は苦い顔をしながら平助を見ている。飯をかっこみながら平助は嬉しかった。
(まるで大店の食事だな)
平助は、ご馳走に夢中になりすぎて腹がパンパンになるほど、飯をおかわりしてしまう。
「これは、拙者よりも大食いでござるな」
熊のような大男は雄呂血丸と名乗ると、平助を感心して見ている。確かに狸腹の平助は、底なしの大食いだ。町内の大食い大会で勝った事もある。白米だけで三十杯は食えた。
「平助、食い過ぎるな、みなの分が無くなる」
「もぐもぐ、腹八分にいたします」
みなが笑い出した。やっと食い終わり一息つくと渋い茶をもらい一気に飲み干した。体が温まるとやたら元気になる。
「それで一馬様、番屋まで来て欲しいと伊藤伝八の旦那からことづけです」
「なにかあったのか」
一馬は茶をすすりながら薄く眼を閉じる。
「船大工が殺されました」
「番屋に運んだのか」
「そのようですな」
一馬が立ち上がると台所から出て行く、平助は玄関に先回りしようと立ち上がる。
「まて、平助」
体が固まる、一馬の祖父の藤原一龍斎がじろりと見ている。
「何かあるなら、わしに相談しろ」
「へい……」
先ほど食べた飯で暖まった体が冷える。一龍斎は、怪我をしているのか調子が悪そうに見えた。
「一龍斎様、どこかお具合が悪いように見えます」
「なに年寄りの冷や水じゃ、少し怪我をした」
老人は立ち上がると寝所に向かうのかゆっくり歩き出す。数日前までは、元気そうに見えたが今では、そこらの老人のように感じる。琴音がつきそうように、一龍斎を介抱しながら出て行くと、眼つきの悪い芸者がつぶやく。
「あれは、もうダメだね」
「これ、月華殿、あれ呼ばわりは失礼ですぞ」