ご免侍 二章 月と蝙蝠(四話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。
長持から、町人用の着物を取り出すと着替える。十手を腰に差すと即席の岡っ引きの出来上がりだ。髷は、町人と武士では違うので頬かむりをする。
「まるで町人のようですね」
「頬かむりは、武士も使うぞ、土埃が多いからな」
「私も風が強い日は使いますね」
当時は風が吹けば土埃で髪の毛が汚れる。頬かむりは自然に身分を隠せた。
暮れ六ツ(午後六時くらい)になると人が減る。店が閉まり始めるので自然と周囲から人が消えた。
(こんな人通りが少ないのに襲われるのか)
一馬は、岡っ引きのドブ板平助が、よほど油断したと考えた。それでも切った張ったのある世界だ、修羅場をくぐった平助が、いくら呆けてても襲われるの疑問に感じる。
目の端に、黒い影が見えた。
(蝙蝠か)
油断なく周囲を見回してから、蝙蝠を見ると確かに銀色の蝙蝠だ。光って見える蝙蝠が人に近づいてくる。
冷気が走ると背筋が寒くなる、前方に向かって縮地の法を使い前のめりに体を飛ばすと背後に何かが打ち下ろされた気配がした。
ぐるんと体を回して、さっきまで背後だった場所を見るが人の気配がない。
(これはやっかいだ)
うす暗闇でも、人が隠れる場所がない。
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