SS 夢の危機一髪 #爪毛の挑戦状
夢は支離滅裂でつながりが無い、まるでダイスを転がすように流れが変わる。いつものように追跡夢を見る。
夢の中で誰かに追われている自分は、いつしか過去に住んでいた郷里の街角を歩いていた、そこで眼が覚める。夢の危機一髪は常に回避される。危険な夢を見ると反射的に起きられた。
「なにか最近は眠りが浅くて……」
「薬でも飲むとか? 」
意味がなさそうな書類をEXCELで作りながら、同僚にグチをこぼす。早く寝ても寝たりない。
「夢が多くない? 」
同僚が笑いながら私にチラシを見せる、深層睡眠カプセルと書かれていた。
「なにこれ? 」
「夢を見ている最中は、脳が活動しているんだって。故意に深く眠らせる装置よ」
野生生物は常に危険と隣り合わせだ。脳を休めてしまうと食われる。しかし脳を休めないと脳内物質を浄化できない、だから脳の半分ずつ眠らせる生物も存在する。でも人間は完全な睡眠が必要だ。私はチラシの電話番号に予約を入れる。
「この装置は、タンクに入り音を遮断します」
タンクに、ベッドが内蔵されていた。タンクの中で頭に眠らせる電気刺激を与える装置をセットして、酸素濃度を高くした。
「目覚めは、すっきりしますよ」
若干高いホテル代並の料金を払い、体験してみる。
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私は街角で追われている、また同じ追跡夢だ。しばらく逃げれば居なくなると思った。だが予想とは異なりいつまでも追いかけられる。通廊は回廊のようになり、同じところを走り続けた。
「なんでシーンが変わらないの! 」
私は心臓の動悸が速くなり疲労を感じるのに、覚醒できない。深く眠りすぎて体が動かない。自宅のベッドならば起きられた。このタンクでは外部刺激が少ないので、目が覚めることはなかった。
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女性客が死んでいるのが発見される、心音モニターは設置されていなかった。健康に問題が無い、持病が無い事にサインしてある。眠るだけで死ぬわけがない。解剖に回されると不思議な事が判る。
「死因はなんですか? 」
「極度の疲労と脱水症状ですね、まるでマラソンで何百キロも走ったかのように、足が腫れています……」
彼女は夢から覚めずに、延々と走り続けていた……