SS 少女漫画のように恋をして【逃げる夢】 #シロクマ文芸部
逃げる夢は私の願望に思える。坂道を歩いている時に、体がふわりと浮き上がり地上から数センチだけ浮いて坂道をすべるように走れるのがとても楽しい。後ろから何か聞こえるが無視して先に進む、私に追いつけないソレは悲しそうに泣いている。
「お前は本当にかわいいな」
「今月のバイト代……」
「悪いな、あとでホテル行こうな」
私より頭二つ分は高い彼は、俳優のようにまぶしい。彼と歩くだけで誇らしく自信を持てる。彼が居ないと私は存在しないのと同じ。だからお金を渡す。
「もうやめなよ」
「あんたの事なんて見てないよ」
親しい人は、私がお金を渡す事に批判的だ、でも私は彼へのつぐないをしたい。私は彼をいじめていた、ずっと昔にいじわるをしていた。それでも彼は私のそばに居てくれた。
「ちび、ばか、うすのろ」
「ごめんなさい、ごめん……」
臆病な彼は、成長期になると背が伸びて素敵な男性に変わる、私は彼がそうなる事を予感していた、当時は整った顔の子供をいじめる快感に酔っていた。今は逆だ、愛に縛られた私は彼のいいなりになる。
「お前は、俺をいじめていた、今でも憎いよ」
私は黙って彼の玩具になる。それがつぐないだ。
愛おしくて気が狂うように彼を求めて、すべてを捧げたい。私は自分の罪から逃げられない。自由になる夢を見るだけ。
「お前は本当にかわいいな、公園で立ってくれ、きっと今より……」
「そうね」
にっこり笑った私をおぞましいモノを見るような顔をする、彼から見れば私はもう恐怖の対象でしかない、臆病な彼は恐れるように階段の踊り場で背を向ける。償いは終わり、私は夢の続きを見るために心を決める、階段を降りようとした彼に、私は体ごとぶつかる。
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私が繁華街を歩くと、みなが逃げ出した。血で染まった服を見て警官が何かを言っているが、私には意味不明の言葉。
「私は逃げられない」
夢のように浮くことはできない、でも警官に両腕を拘束されて体が軽い。私は嬉しかった。きっと今日も夢の続きを見られる。