SS 立ち食い金次郎【決闘年越しそば】#毎週ショートショートnoteの応募用
「決闘年越し蕎麦が決まった」
「場所は……どこだ」
「盛岡」
金次郎は無表情のまま立ち上がると、薄暗い店内を見回す。夜勤のタクシー運転手、水商売のバーテンダー、そして得体のしれない男。外食の安全を守るために俺たち試食屋が必要だ。そのためには、毎年一回の味比べ試験を受けなければ、プロになれない。
「今年は、わんこそばか」
わんこそば、それは少量のそばをつぎつぎと継ぎたされて食する試練の場だ。
(いかにして、薬味を的確に選べるか)
ただ食するわけでは無い、かぎりある薬味の配分を計算しながらフィニッシュを迎えなくてはいけない。もし間違えれば、薬味なしでソバを食べる事になる。
ねぎやとろろ、わかめ、かつお節、のり、刺身、お漬物、なめたけおろし、いくら、紅しょうが、山菜、考えただけで腹が鳴る、さきほどのきつねソバでは、まだ足りない。
(食って食って食いまくる)
金次郎は熱い決意で夜行寝台列車に乗り、決闘場所の盛岡に到着する!
「金次郎さん、すいません」
「どうしたんだ」
「熊が市内に現れて、封鎖になりました」
「なんだってー(棒)」
今年の試験は中止になり、金次郎は涙をぬぐい東京に戻るのだった。また来年、よいお年でありますように。
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