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SS つながり【錦鯉釣る雲】 #毎週ショートショートnoteの応募用(450文字くらい)
錦鯉 釣る雲間に 老爺かな
池を見ている老いた侍。節句の鯉が水面にゆらゆらと泳いでいる。
(子がいれば……)
隣家の鯉は黒と赤で美しい、孫も産まれて安泰だ。
「――跡継ぎが死ななかったら」
自分の子は素行が悪かった、隣家の長男と女を取り合い決闘で死んだ。
(馬鹿な息子だ……本当に馬鹿だ)
老人は池に涙を落とす。
「あの……」
あわてて涙をぬぐうと隣家の嫁が孫を抱いて庭で立っている。
「どうしました」
「赤ん坊を見せたくて……」
「ああ……かわいいですな」
可憐な妻は、悲しそうな顔をして赤ん坊を見せる。老人は疑念を感じた。
「なぜ悲しむのです」
「この子は、あなたの孫です」
彼女と息子の間で子が出来た事を知ると隣家の長男と言い争いになり、切り捨てられた。
「ただただ私をかばったのです」
「そうでしたか……」
自分の家は潰れる、でも息子の子は生きている。空を泳ぐ鯉が勇ましくたくましく見えた。涙する事はもう無い。