ご免侍 七章 鬼切り(四話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。
四
火縄の臭いがすると山賊の権三郎が宿に戻ってくる。
「旦那、夜襲はないようです。追っ手はおりません」
猟師として優秀な権三郎は、山の異変に敏感だ。どこぞに隠れて村を襲うならば、飯を食ったり休まないといけない。そんな場所は、実際は多くない。
「ごくろう、宿で飯を食ってくれ」
権三郎は、すっかり手下として働いている。人間は不思議なもので、良い事をするきっかけがあれば、盲信のように真面目に働く人間もいる。それは悪事を積み重ねたことへの反動だ。
「じゃあ飯を食ったら一眠りして、また見張ります」
「無理せんでいいぞ」
権三郎は、一馬に頭を下げながら宿に戻る。
「あなたも慈悲がありますな」
「そう……なんですかね」
雄呂血丸から、言われると自分は変わったように感じる。昔はひたすら、悪人を殺せば良いと考えていた。ふりかえって見ると、小さな悪事をしている素人をむやみに殺しただけだ。
(本当に強い相手とは、戦えない)
露命臥竜を倒せない自分、散華衆に尻込みする自分。
「戻りましょう、雄呂血丸殿、琴音を守ってください」
「命にかけても」
彼は力強く、自分の胸をこぶしで叩いた。
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「これが鬼切り」
刀鍛冶の鬼山貞一が、一馬に見せたのは、打刀のようにソリが浅い刀だ。しかし異様なのは、刀剣の表面だ。うずをまくように文様が広がっている。
「これは……」
「なに、南蛮人の刀を真似しただけじゃ」
今のダマスカスブレードと同じように性質の異なる鋼を丁寧に積層鍛接した刀で、しなやかで折れにくい。
異才の刀鍛冶は、他国の武器を見て自分で製法を編み出した。その刀は日本刀よりも少しだけ重いが、硬度は桁外れに高くしなやかだった。