ご免侍 九章 届かぬ想い(十八話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。大烏元目に会う一馬は、琴音そっくりの城主と対面する。天照僧正を倒すために城へ乗り込む準備が始まる。
十八
「私は戻らないよ」
月華が兄の臥竜に、やさしくさとすように声をかける。露命臥竜は、刀を鞘におさめると立ち上がった。
「まて、どこに行く」
「隠形鬼の所に戻るだけだ」
「話を聞け」
「聞いてどうする、今度お前と会うときは殺す」
歩き出す姿はぎこちない、足の怪我は完治していない。
(そうか金鬼との戦いの時に、権三郎の弾にあたったか)
彼はもう前のようには戦えないのだろう。ただ妹が心配で会いにきただけの兄。廊下を進み階段を降りるところを見届けると部屋に入る。
「栄、怪我はないか」
「大丈夫だよ、酒を飲んでたら、いきなり入ってきて驚いたよ」
「月華も大丈夫か」
「私の心配を先にしないんだ」
「う……、そんな順番とかいいだろ」
「ああ、兄貴のところに戻ろうかな」
ちらちらとこちらを見る月華は、笑っている。
「なぁ月華、散華衆とは一体なんだ」
「私もよく知らないよ」
荼枳尼天を本尊として、生と死をつかさどる神を信仰対象にして不老不死を目指していた。
「そんなことが可能なのか」
「ないと思うよ、ただ子供を使ってやたらと蘇りの儀式をしていたかな」
性行為は、そのまま生きるための力になる。すればするほど寿命が延びると考えて大名の家来達と結ばれていたという。
「なるほど、それで城の侍達を懐柔していたのか」
「そうだろうね、男女で登城していたよ」
「男も……」
「そりゃ稚児趣味のヤツもいるからね」
一馬は、絶句しながらもやり方の汚さに深い闇を感じる。