SS チョロいの、くさび #毎週ショートショートnoteの応募用
マヌルはマヌル猫だ。いつもの宝石店でぼんやりしているとヨシダさんが入店する。
「チョロいの、かなずち」
宝石街は名前が適当だ。ニックネームと同じでゆるくつけている。ヨシダさんはハリネズミで長く生きているから、最近は単語だけで意思疎通する。
大工がアレソレで何が欲しいのか判るように、空気を読め。みたいなスタイルだ。
「ヨシダさん、かなずちが壊れましたか? 」
うんうんとうなずくハリネズミは小さな手を出して、早くよこせと催促する。こぶりの破砕用のハンマーを渡すと嬉しそうに出て行く。彼は洞窟で宝石を掘っている。
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「マヌル、ヨシダが帰って来ないよ」
家主のヒマラヤン婦人が店に来る。なぜかヒマラヤン猫の彼女は、相談事があるとマヌルを頼った。
「洞窟で寝てる? 」
「歳だからね、心配だろ? 」
マヌルは自分の採掘道具を背負うと店を出る。今日はいつもの仕事と同じだ、宝石を掘る洞窟に到着すると奥に進む。
「チョロいの、マヌル」
ヨシダさんがこぶし大の岩に足をはさまれている。マヌルはくさびを取り出すと、岩の裂け目に入れてハンマーで叩く。
バキッと音がして岩が割れると
「チョロいの、くさび」
と嬉しそうだ。ヨシダさんを背負って宿屋に戻った。
「チョロいの、コハク」
ヨシダさんがマヌルに琥珀を手渡す。虫入りだ。ヨシダさんの宝物かもしれないが、お礼のつもりだろう。琥珀の中には小さな蟻が閉じ込められていた。
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