ご免侍 八章 海賊の娘(五話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。村上栄と名乗る女が一馬と勝負する。
五
どかっと上座に座る村上主水は、やたらと一馬を見つめる。敵意ではないが、好意でもない。ただただ力量が知りたい、そんな感じだ。
「それで鬼山貞一殿は、遠い親戚のわしらに手を貸せと」
「船と船頭を頼む」
「金はあるのか」
「ある、数万両はある」
「ふざけたことを」
「無いと思うか……」
じっと鬼山貞一を見つめる村上主水との間ににじみでるような緊張感がある。
「なるほど、平家の金か……」
「そうなるかな……」
一馬は驚いて祖父の鬼山貞一を見る。
(平家? 何百年も前に壇ノ浦で沈んだ……)
混乱している一馬は、母親の桜姫の事を思いだす。そうだ高貴な血が欲しかったと言っていた。イケニエのために高貴な血を使う。だから母が殺された。今すぐにでも話は聞きたいがぐっと我慢する。
「船も船頭も貸してもよい、ただし条件がある」
「なんでも言ってくれ」
「そこの小僧をくれ」
ぐっと指さす先に一馬がいた。
「こんな小僧をどうするんじゃ、食うのか」
「婿にする」
「栄です」
声がかかると障子が開き先ほどの娘が座っていた。
「どうもうちの娘は気が荒くてわがままで、自分より強い男以外は無理らしい」
「父上、お言葉が過ぎます」
「とにかく島の男は全員だめだ」
「弱くてもかまいませんが、男として立っていないからです」
「それであんたの孫をもらいたい」
「この人ならば問題はありません」
「船頭もできるから連れて行け」
「私の力を貸しましょう」
「それで祝言は夏くらいでいいか」
「早速、花嫁衣装を作るように頼みます」
あわてて一馬が口をはさむ。
「まってくだされ、私はその、夫婦になる約束をした娘がおりまして」
じろりと村上主水が一馬を見る。
「その女は側室でもかまわんだろ」
月華が、どう反応するのか眼に浮かんだ。