ご免侍 八章 海賊の娘(十一話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜が一馬を襲う。
十一
遠くでドーン、ドーンと大筒の音がしているので攻撃は続いているようだ。月華と村上栄が罵り合っているが、手は出していない。
(もし殺し合いになったら……)
一馬は考えるだけで身震いがした。それよりも鉄甲船だ。あれをなんとかしないと始まらない。
「まてまて、喧嘩は後にしよう」
喧嘩の仲裁をするつもりが、じろりと女達からにらまれる。
「私は……約束した」
月華が、ぼろぼろと泣き出す。琴音がそっと肩を抱いてなぐさめた。月華が泣くとは思わなかったので、一馬は動揺を隠しきれない。
「わかている、わかっているが少し待ってくれ」
「私はお前を夫にすることを諦めない。お前は強いし、やさしい。旦那にするには最適の男だ」
海賊の娘の村上栄は、真正面から一馬を手中にしようと迫ってくる。
(これはもういかん)
一馬は決意した。
「わかった、条件を飲む、ただしすべてが終わった後だ」
「すべてって何よ」
泣いている月華が、一馬を怒りの眼をむける。
「すべて……、俺は神を倒すつもりだ」
女達があっけにとられた顔で、若い侍を見つめる。神を倒す……そんな馬鹿げた事を真面目な顔で言い放つ、一馬の態度が笑いを誘う。
「うふふふ」
「あははははっ」
「なんだ、馬鹿だな、大馬鹿か」
一馬は落ち着いて女達に語りかけた。
「馬鹿ではない、今も江戸の子供達がさらわれている。そして、この島でも同じだ。子供をさらい、自分たちの神にイケニエとして捧げる。そんな神は邪神だ。おれがぶったぎる」
最後は怒号のように大声になった。女達は、一馬の気迫に負けたように押し黙る。
「今は戦いの最中だ。それぞれの言い分は判った。俺がもし生きていれば、どうとでもしろ」