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SS 髪の毛 【マフラーに】 シロクマ文芸部参加作品
マフラーに金髪の毛が付着していた時の絶望感をどう表現すればいいのか判らない。
(まさるは浮気している……)
もちろん私は金髪でもないし、こんな長い髪の毛でもない。気分が落ち込み体がリアルに重くなる。
(もう別れてやる!)
出来もしない事を考える。浮気だから許してあげるのも妻の役目なんて、うそぶいてもギリギリと歯がみしたくなる怒りはおさまらない。
「ただいま、今日はマフラーわすれちゃったよ」
「まさる!誰と浮気したの!」
襟首をつかむと涙が流れる。怒りよりも悲しみの方が大きい、どうして? なんで? 金髪そんなに好きなの!
「なんの話だ、浮気なんてしてない」
「マフラー!、金髪!」
怒りで言葉にならない、単語で責め立てると、まさるが笑い出す。
「なによ、笑ってごまかすな」
「兄貴のだよ」
「え?」
「ちょうど連れてきた」
「あらー、かわいい奥さん、ちゅっ」
まさるの背後から身の丈190cmはあるニューハーフの金髪の男が顔を出す。
「兄だ、マフラーを貸したんだよ」
「奥さんが編んだの? ステキ、あとで私にも教えてね」
お兄さんと一緒に夕飯を食べながら、浮気じゃなくて良かったと思いながらも、お兄さんの迫力でずっと顔がひきっつったままだった。