ご免侍 九章 届かぬ想い(十九話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。大烏元目に会う一馬は、琴音そっくりの城主と対面する。天照僧正を倒すために城へ乗り込む準備が始まる。
十九
「まぁ侍から金を出させるのが目的で、儀式なんて名目だよ」
月華が、馬鹿にしたように笑う。一馬は、その事と壇ノ浦で沈んだ魂を蘇らせる関連性を考えた。
(もし本当に、その力で蘇るというならば……)
散華衆は、勢力をたくわえながら子供達を集めて、安徳天皇を蘇らせて京に上る。大混乱の中でより多くの大名や公家たちを、儀式で縛り付けて天下を掌握する。
「果たしてそんな事が可能なのか……」
「なにが可能なんだい」
月華や村上栄に、今の予想を説明すると嫌な顔をした。
「昔の天皇が戻ったからって変わらないよ」
「……もし本当にそうならば、京から軍勢が来ないのかい」
栄が眉をひそめる。
「ああ、確かに軍勢が来る可能性もある」
「だったら、このあたりの侍もみな殺されるよ」
そうだ、散華衆に囚われている子供達も口封じに殺されるかもしれない。
「厄介だな」
「ねぇ、なんか食べよう」
台所で飯を頼むと箱膳が運ばれて夕飯になる。煮魚と味噌汁、白米を食べてやっと一息がついた。
「そろそろ寝るか」
一馬がつぶやくと女達が膳をしまって支度をはじめる。月華が布団を敷き始めた。陽も落ちて部屋が暗くなると寝息が聞こえてくる。一馬はじっと暗い天井を見ながら考える。
(なぜ父上が散華衆に力を貸しているのか……)
母を殺された恨みで復讐を狙っていた……いや違う、死者を蘇らせる事ができるならば、母も生き返る。
(そうか、父上は母上を取り戻したいのか)
だとしてもさらわれた子供達を使って儀式をするのは言語道断だ。ご免侍として、法を守ってきた人間のするべき事ではない。
(よし、俺が倒そう。父を止められるのは俺だけだ)