SS 助手席の異世界転生 #毎週ショートショートnoteの応募用
夜のドライブは下心を隠すのに苦労した。
「どこを走っているの」
「近くの山頂で夜景が見えるんだ」
今は車を静かな場所に移動させたいだけだ。奇妙な少女は腕を上げてヒッチハイクをしていた。耳が少しばかり尖っているのとハーフのような白い肌は作り物に感じる。
「なにかの仮装なの?」
「よく言われる……」
ぽつりとつぶやく少女の横顔を見ながら、あの時にどんな顔になるのかを想像するとハンドル操作を間違えそうになる。
「あぶないわよ……」
「ああ、ちょっと眠いかなぁ、仕事に疲れてて」
むっつりしている彼女は、俺の顔を横目で見ながら
「本とか読む?」
「……アニメなら見るかな」
「異世界転生とか?」
「知ってるよ、生まれ変わって魔王とか退治する」
会話が途切れると、また彼女は黙る。俺はおずおずと
「……アニメとか見るの?」
「この世界に来てから見てる」
(厨二病みたいな感じか……この世界って……よそから来たみたいな)
「停めて」
「え?」
俺はゆっくり山道で車を停めると、助手席の彼女は俺の腕をつかんで
「我が名に命じて助手席の異世界転生を実現せよ」
彼女が呪文を唱えると俺は深夜の森の中で、裸だ。幼い子供だ。
「なんでちゅかここ……」
「異世界転生よ……、あなたは勇者」
(俺は異世界でヒーローになれるのか!)
彼女は歓喜している赤ん坊を業火で丸焼きにする。
「魔王様の命令で勇者狩りとか、超めんどい」
黒い羽を広げると次の勇者候補を探しに行く。