![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154181846/rectangle_large_type_2_c160f001eb68b3999d4951ab5dc2ccbe.jpeg?width=1200)
ご免侍 十章 決戦の島(十話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章 第九章 第十章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆のもう一隻の鉄甲船が、襲いかかる。船は沈み助けられたが、敵に捕らえられた。
十
粗末な小屋に押し込められたが、とても牢屋として使えないシロモノだ。一馬なら体当たりで壁を破壊できる薄さで、海風がやたらと入ってくる。乾いたワラがあるので濡れた服を脱いで広げて、板から出ているクギにつるして乾かす。ふんどしもとって丸裸でワラの中に入り込む。
(ようやく体が温まる……)
皮膚に塩がついているのでこすり落とす。しばらく寝転んでいるが眠りはしない。敵陣の中で安易に眠れないし殺される可能性はある。
(さてどう、父と話をするか)
理屈を通したところで判ってくれるとは思えない。琴音をイケニエにするのかも判らないが、散華衆の四鬼、金鬼が、琴音の子をイケニエにするとも言っていた……
(おぞましい事だ、高貴な血を持つ子をイケニエにして死者を蘇らせるのか……)
狂信的ならば説得は無理だ。相手は正しい事をしていると信じている。それを説得で変えさせるのは難しい、情で訴えようが、理を通そうが意味はない。
ドンドンと扉がゆらされた。
「だれだ」
「私です」
すっと引き戸が開くとするりと少女が入ってくる。水野琴音だ。
「着替えを持ってきました」
「ありがとう」
「明日にはお父上とお話ができます」
「うん……」
髪型は短くもっと幼い少女のようにおかっぱ頭の琴音は、少しだけうれしそうに微笑んでいる。
「つらいことは無いか」
「なにもつらくはありません」
「ならば、良かった」
もっと伝えたい事はある筈なのに、何も言葉を選べない。もっともっと琴音と話したい。
「なにか食べるものはあるか」
「握り飯をもってきます、気がつきませんでした」
「江戸の屋敷で、琴音と食べた飯はうまかったよ」
「はい」
彼女も何か言いたげなのに、言葉にならない様子だ。
「琴音、これが終わったら江戸に戻るか」
「いえ……いいえ」
声を漏らさずに泣く妹を抱きしめる。一馬は必ず江戸に連れ帰ると決めた。それが父親を殺す事になっても……
![](https://assets.st-note.com/img/1726224156-IvcS2eYlWh9P0A1MgOwkyqVD.jpg?width=1200)