SS 逆光のみクジラ #毎週ショートショートnoteの応募用
「闇クジラ?」
「たまにでるんだ」
少年は、老人の丸太をくりぬいた小舟で漁の見習いをしている。櫓をこぎながら、老人の貴重な話を聞く。
「船幽霊が出たら、ひしゃくに酒を入れて出せばおとなしくなる」
不思議で奇怪な話は面白い。海の水底に何が居るのか誰もわからない、島くらいあるエイの話や人魚の話。
「クジラは集団で生活している」
「クジラのおっとうとおっかあもいるの?」
額の汗をぬぐいながら沖を目指す。
「子供を守ってる、だからまず子供を狙うんだ」
「……」
「そうすると親が必死になって、子供を助けようとする、一網打尽だ」
むごい話だが、漁師も喰わなければいけない。そこは少年も理解はしているが、その惨状を想像すると涙がでる。
「馬鹿、情けはすんな」
「うん」
「どちらにしろ、闇クジラが来たらおしまいだ」
「闇クジラって?」
「子供が死んで、自分だけが生き残ったオスだ、だから人を憎んでいる」
海面が黒く盛り上がると、すぐにへこむ。海の中から巨大なクジラが飛び上がる。
まぶしい太陽の影で、かろうじて逆光のみクジラと判別できた。巨体が丸太を叩き潰す。
xxx
「でぇじょうぶか?」
「うん……」
塩辛い水を吐きながら気がつくと砂浜だった。漁師達が事情を理解すると皆がちりぢりに仕事に戻る。
「おらは、なんで助かった?」
「ああ、闇クジラは子供を頭にのせて浜に返すんだ」
#逆光のみクジラ
#毎週ショートショートnote
#童話
#ショートショート