ご免侍 十章 決戦の島(十九話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる、父親の藤原左衛門の過去が語られる。
十九
「お父上は、大丈夫か」
「熱は出ていますが傷は浅いです、ただ……」
「ただなんだ」
「片目が……」
妻の父親の目をつぶしてしまう。寝所での鬼山貞一の横で頭を下げた。
「もうしわけござらん」
「……もうええ」
「……」
「江戸に連れて行け」
「よろしいのですか」
「ただな……」
「なんでしょうか」
「大烏城から使いが来る」
「イケニエの事ですか」
「ああ、わしらは最後の代だ、桜が死ねばもうだれも贄にはならんだろう」
「なにがあるのです、なぜ娘を……」
「わしらは平家の落ち武者の子孫でな、長く壇ノ浦に娘を差し出してきた」
「……」
「ただの迷信だ、それでもわしらは最後の家臣として役目を終わらせたい」
「わかりません」
「理屈ではない、何かに縛られてそれで幸せになると信じる者もおる」
「わかりません」
「娘を頼む……」
最後は怒りがにじみでていた。理不尽で馬鹿げている事でも家のために、死んだ安徳天皇様のために忠義を尽くしたいと身を捧げる。
「江戸へ行こう」
「父の目が治るまではおります」
「わかっている」
今考えると自分も同じだ、幕府から命を受ければ、相手が何者でも殺した。幕府を批判するもの、百姓一揆の首謀者、公金を盗んだ上役のしりぬぐいで死ぬ家臣。彼らに何の罪がある、こんな世界を生きて幸せになるとは思えない。この頃から、桜と死のうと思っていたのかもしれない。
伊豆の山奥から江戸に戻り、武家屋敷でほんのひととき幸福を感じた。男児に恵まれて、天を走る馬から、一馬と名付けた。俺とは似ていない素直な息子は、修行をさぼらずに黙々と剣の腕をあげていく。
まだ一馬は幼かった時に、大烏城から使いの者がきた。