ご免侍 八章 海賊の娘(二十四話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
二十四
その場の異様な雰囲気は忘れられない。四鬼の一人、隠形鬼は、江戸にいた蝮和尚だった筈だ。
「――父上、乱心されましたか……」
「そう感じるか」
ちらりと露命月華と兵次郎を見るが、心底驚いた表情をしていた。
「隠形鬼は、姿を変え隠れる鬼の事だ、元から一人の名ではない」
「……馬鹿な、それならばいくらでも琴音を奪えた」
「隠密頭の天狼ですら、わしの正体を知らぬ」
誰にも知られない、隠れて国に災いを及ぼす。一馬は胸が苦しくなる、父親が敵ならば、祖父を殺した敵だ。
「あなたは……母を殺した散華衆になぜ」
「お前には無理だ、江戸に戻れ」
「嘘ですよね、嘘をついて私を追い出したいだけですよね」
「嘘ではないな」
露命臥竜がゆっくりと姿を現した、どうやって近づいたかすら判らない。もっとも一馬には、もう余裕がない。
「祖父の敵!」
鬼切りを抜く、がいつものように振動していない。普通の刀に感じる。強大な敵に勝てるかなどと考えてもいない。
無策で、ただただ真っ向から刀を上段から切り下げる。しかし露命臥竜の動きは遅く感じる。臥竜が大刀を抜くと一馬の刀をはじく。
ギンッ
高い金属音が聞こえると露命臥竜の刀をたたき折る。それでも露命臥竜の刀身は十分に長かった。何合か打ち合うと臥竜の刀は、ほぼ刃の部分が消えてしまう。
(どうなっている……)
一馬は意識のどこかで不思議に感じている。技量では露命臥竜の方がまさっているのに、今は圧倒していた。その一瞬だ、巨大な手が一馬の胸に当て身を入れた。