ご免侍 九章 届かぬ想い(十話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。
十
「某月某日 明け六ツ(午前六時)に会いたし」
指定された場所は寺のようだ。
「あまり日にちがないね」
「これは殿様が、琴音に直接会う予定だったのかな」
書状がどのような経緯で作られたかはわからないが、散華衆の四鬼を通じて前もって送り届けられる手はずだったのかもしれない。
(大烏元目に直接会えるならば……話が早い)
「罠じゃないのかい」
「こんなめんどうな事するかな」
「それは判らぬが、使いの者が来るかもしれぬ」
「そうだね、殿様がくるわけないよ」
使者を捕まえて城の内情を探れる。そう思うと手詰まりだった前よりは状況は明るく感じた。
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「権三郎は置いていけ」
「はぁ……」
「わしが改造する鉄甲船の砲手にする。いそがしいぞ」
「あとで合流いたしましょう」
悪魔じみた顔で鬼山貞一が笑っている。決戦のために兵器を作ると楽しげに見える。権三郎が抜けるのは痛いが仕方がない。
「では月華と村上栄を連れていきます」
書状に書かれていた日時から逆算してすぐにでも島を離れて陸地を目指さなくてはいけない。
「なるべく速い船を使うよ」
海賊行為のために船は、どんな船よりも素早く動ける。琴音をさらった、父親の藤原左衛門よりも早く陸路で到着しないと、使者にすら会えない。まかり間違えば、敵の集団が待ち伏せしているかもしれない。
(間に合えばよいが)
だが村上栄が操舵する船は普通の船の十倍は速く港についた。そのまま陸路で寺近くの村で時間をすごす。もし罠とわかれば逃げれば良い。落ち合う寺は荒れ寺でもう住職もいないと村人から聞かされた。念入りに調べたが伏兵が潜む場所もなかった。そして当日は日が昇るまえに山に入る。山の上にある山門に侍がいた。
「まて、どこのものだ」
「この書状でまいりました」
琴音のふりをした月華が、見張りの侍に文を見せる。三人は難なく寺の中に入ると……そこには琴音が座っている。
「琴音」
近寄ろうとすると、その人物は手で制した。
「私は大烏元目、水野琴音は居ないのか」
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