失恋標本箱【星が降る】シロクマ文芸部参加作品
星が降る夜空を見上げて、しっかりと失恋標本箱を胸に抱きしめる。彼との思い出を詰めた小さな箱。私のとても大切な箱。
「処刑だ、座れ」
頭を斧で切られるために、私はここに居る。
「君が魔女だって?」
笑う彼は大地主の息子で、年上の私を愛してくれた。彼が病気で苦しんでいると知って、薬草を渡したのが出会いだ。ゆっくりと愛が育まれて、そして破局した。
「魔女なんかに大事な息子を渡せるか!」
「愛しているんだ」
三文芝居のような愛憎劇。彼は私の手をとり別の街で暮らそうと逃げたのに、逃げる途中で怪我をして死んでしまった。私は失恋標本箱に、彼の爪や毛を切って大事にしまった。今までの恋人達と同じように、失った恋を忘れないために、大事に大事に……
「言い残す事は」
「何もないわ、魔女とさげすまれた私を愛してくれた彼らを解放したいだけ」
何百年も生きた、そして箱につめられた彼らの遺品はすさまじい力を得ていた。私の愛と呪い……
自分の首が、斧で切り離された音を聞いた時に箱を開けた。失恋標本箱から出たモノは、漆黒の巨大な骸骨となり、処刑人も大地主も見物していた村人も街全体を破壊して荒野に戻した。
誰もいない荒野に星が降る、幼い少女は立ち上がると星空を見上げる。また愛してくれる人を探して歩き出す。
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