
ご免侍 一章 赤地蔵(六話/三十話)
隠密頭に呼び出された帰りも神田川沿いを歩いていると夜鷹が何人も立っていた。
「ちょんの間だよ、安いよ」
「若いね、おねえさんが教えてあげるよ」
彼女らからすれば一馬は子供のように見える、童顔の若侍が遊び歩いていると思われていた。さすがに彼も夜鷹は買わない。病気の事は当時から知られていた。立っていた夜鷹が咳をする、体が弱っているようだ。
「どうしたの、また薬もらえば?」
「明庵さんに、薬をもらったんだけどね」
夜鷹の仲間同士が医者の話をしている。暗殺相手の明庵の名前が出ると気が変わった。一馬はくるりと振り返ると夜鷹に向かって近づく。
「いくらだ」
土手の方に向かいながら嬉しそうに夜鷹は、一馬の腕を抱いている。胸を押しつけながら色香で誘う。
「かわいいね、あんたモテるだろう?」
三十なのか四十なのかわからない、かなり老けて見える。ろくに食べられないのかもしれない。鎖骨が浮き出た体で、一馬の体に密着する。ゴリゴリと痩せているのは着物ごしで判る。体も垢じみた臭さもあった。それでも女からの甘酸っぱい匂いを感じる。
「金を払う、明庵の事を教えてくれ」
「なんだい抱くんじゃないのかい」
ゴザを持って土手まで連れてこられたが、不機嫌そうな夜鷹はむっつりと片手を出した。
「百文だよ」
一馬は黙って一朱銀(二百五十文くらい)を渡す。驚いている夜鷹からゴザを受け取り土手に座った。
「明庵の評判が良いって聞いてね」
「ああ、あたしらに安く薬をくれるんだよ、仏様だよ」
明庵は、夜鷹たちに薬を安く渡していた。毒ではないのかと疑うが、彼女は何度も薬をもらっている。彼女らは少しずつ元気になっていた。
(伊藤伝八からの頼みだが、少し調べるかな……)
