創作民話 悪徳お姫様は吸血鬼に狙われる
「飽きた!飽きた」
私は行儀見習いの教師に怒りをぶつける。
退屈極まりない歴史の話を聞いてもつまらない。
椅子から、わざと音を立てて部屋を出た。
「ローゼット様、わがままばかりでは評判が悪くなります」
身の回りを世話する乳母が私をしかりつけた
「いいのよ、どうせ私は政略結婚の道具でしょう」
召使達は私の横柄な態度を嫌っている
かまわない、どうせこの城から出ていく
好かれる気もない。
「ローゼット様、お茶をもってきます」
自室につくと、専用メイドのアメッタが声をかける
この娘だけには親切にしている
だっていつも一緒に居るのだから、お互いが不愉快では
支障がでる
「今夜の晩餐会は、仮面舞踏会ですよ、どのマスクを使います?」
あーもう、かったるい
まだ相手が決まってないなら面白いが、
嫁ぐ相手がいるのだから、面倒なだけ
でも面白いことに気が付いた
「ねぇアメッタが私の服を着て、出てよ」
びっくりした彼女は
「でもすぐばれてしまいますよ」
「顔全体を隠すマスクなら大丈夫よ」
私はアメッタの服を着ると、彼女はそのまま舞踏会の場に押し出した
馴れてない彼女は、どうしていいのかわからないのか
キョロキョロしている
それを見て私は面白がっていた
でも周りの貴族たちは、私(アメッタ)と思い込んで上手に
エスコートされている
あんなに親切されると、少し嫉妬する
「私あんなに丁寧に扱われた事ないわ」
ぷんぷん怒っていると
すっと貴族が横に立つ
「お嬢さん、飲み物はあるかな」
眼をマスクで隠していても、淡麗な顔立ちと身のこなし方は
そこらの貴族たちとは、段違いの雰囲気がある
「え!知らないわよ、召使いに聞いて」
いつもの調子で怒るが、自分がメイド姿なのを忘れていた
ごまかす気も無いから、すぐにその場から立ち去る
ぐっと手首を掴まれる。
「なら君のでいいかな」
ぐぃっと引き寄せられると、露出している鎖骨を思いっきり噛まれた
「・・・・」声すら出せない激痛が走ると気を失う。
ぐいぐいとゆすられる
「お嬢様、大丈夫ですか」
アメッタが私を心配している
肩に触るが、傷もない。
「夢・・、いえなんでもないわ」
アメッタに支えられながら自室に戻った
私が嫁ぐ日になる、城を出て旦那様の館に向かう
相手は30歳以上も歳が離れている、子爵だ。
再婚で子供はいない、彼の社交界の地盤固めのために
利用されるだけの人生。
式もなく、味気のない結婚だ。
アメッタも一緒についてきてくれる、それが少しだけ慰めになる。
でもなぜか彼女は最近は顔色が悪い。
「ローゼットは、まだ生娘か?」
子爵は体もたるみ、足元もおぼつかない老人に見えた
見ているだけで嫌悪感が走る、でも私は反抗する気もない
少しだけ体を許せば、また平穏の日を過ごせる
黙ってベッドに座ると目をつむる
手首が掴まれた、でも嫌悪感が不思議にない
とてもやさしく手の甲をなでられる
「また会ったな」
眼を開けると舞踏会の貴族が居る、いや吸血鬼?
子爵は床で倒れていた
「あのような男の血は吸わない、生気だけ取り込んだ
もう死んでるよ」
私に笑いかけると、また鎖骨を噛まれた。
「もう痛いったら」吸血鬼をグーで殴る
彼は笑いながら「熟成した君の血は極上だ、また会おう」
初夜の日に老人が興奮で死んだ
ありきたりのゴシップが広まったがすぐに忘れられる
私は城の自室にまだいる、あの吸血鬼は
私をワインか何かと勘違いしているのだろう。