ご免侍 七章 鬼切り(六話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
六
(琴音が死ぬ……)
鬼山貞一から、ゆずり受けた鬼切りをかまえる。深呼吸をしながら冷静になるように心を静める、怒りは禁物だ。
普通の太刀よりは重いが、鬼おろしになれた藤原一馬には、羽毛のように感じた。
「えぃっ」
鋭い気合いで刀をふるうと空気を切り裂くような冷たさを感じる、ビリビリと腕がふるえると刀が振動する。
(なんだこれは……斬った後に啼いている……)
鬼啼き、鬼山貞一は、どんなものでも切れると言っていた……
「一馬」
月華がゆっくりと近づく気配がする。一馬は、この鬼切りを持っていると周囲の気配を感じられる。刀が周囲の音を聞いている、そんな感じで刀から腕に気配が伝わる。
「すまん、修行中だ」
「見ればわかるよ……」
「……どうした」
「あんた殺気の塊だよ」
自分では気がついていないが、なにかが切れて抑制が外れている感じは自覚していた。
「それはまずいな」
「今にも私を殺そうとしている」
「馬鹿な」
刀をおろして月華を見ると、旅姿ではない美しい着物姿だ。
「どうしたんだ……」
「あんたの片目のじいさんからもらったよ」
くるくると回って見せるのは、母の桜姫の遺品だった。確かに目をひくような姿だ。
「そうか……きれいだぞ」
「……」
月華の顔が真っ赤になる。まるで初心な町娘にしか見えない。つぶやいた一馬の方が恥ずかしくなる。
「ああ……本当だぞ、俺はお前が好きだぞ」
「うるさい」