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ご免侍 十章 決戦の島(六話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、妹の琴音ことねを助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬かずまの前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆さんげしゅうのもう一隻の鉄甲船てっこうせんが、襲いかかる。


 もう太陽が沈む寸前だった、島影から現れた散華衆さんげしゅう鉄甲船てっこうせんが、一馬達が乗る船に追突して、両者の船が沈みはじめる。

月華げっか、泳げるか」
「平気だよ」

 船の連中は、船を捨てるように海に飛び込んだ。近くに海賊船もあるし、瀬戸内海の大小の無人島まで泳げる。

「旦那も早く逃げてください」

 連発銃をかまえた元山賊の権三郎ごんさぶろうが甲板に姿を見せた。

鬼山おにやま殿は」
「もう海に飛び込んで泳いでおります」

 老人なのに泳ぎが達者なのは、鍛冶で体を鍛えているせいか、水練になれているのか、わからない。船が傾きはじめると、向こうの船から続々と敵が乗り移ってくる。

 轟音一発、権三郎ごんさぶろうの放った弾が広がるように敵に飛散した。さらに一発、また一発。恐るべき連発銃は、散弾を連続で発射する。

 まだ若いであろう散華衆さんげしゅうの男達が血まみれでうめいている。

「旦那、弾がもうないです」
「お前もすぐに逃げろ」

 長身の男が姿をあらわした、肩幅の広い無表情の顔は露命臥竜ろめいがりゅうだ。

「ご免侍!」

 一馬は決着の時だと直感する。ここで倒さなければ、強敵を一人でも減さないと、父親に勝てる気がしない。

月華げっか、手出しはするな」

 臥竜がりゅうが怒声で呼応する。だが月華げっかは、落ちている刀を拾い前にでる。

「私が殺す」
「やめろ、月華げっか

 力量が違いすぎる、妹である月華げっかを傷つけなかったのは兄の優しさもあるが、誰よりも大事にしたい臥竜がりゅうの愛の形だ。

 猛然と突っ込む月華げっかの切っ先が届くまえに、臥竜がりゅうの長大な野太刀が月華げっかの刀をはね飛ばす。重さが違う、早さが違う、技量も違う。

「ちくしょう」
「お前は生きろ……」

 月華げっかそのまま素手で兄の腹に突っ込む。それをつかむと臥竜がりゅうは、彼女の体を抱えて海に放り投げるように船縁ふなべりから落とした。

#ご免侍
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