SS 夢を見る男【不眠症浮袋】#毎週ショートショートnoteの応募用
不眠症気味なのは、殺した恋人の死体が気になるからで薬で眠ろうとは思わない。
(浮いてこないのか……)
眠たくても眠れない苦痛は不眠を経験した人間ならば共感をしてもらえると思う。同じように苦痛に感じる恋人だった存在と過ごす生活のいらだちは、胃にくる痛みで実感できる。
(殺そう)
合理的な決断と今でも信じているが実行に移すのは簡単ではない、どう説得して現場に行くのか目撃される危険はないのか死体を確実に始末できるのかハードルは高いが、なしとげた。
(これで安心して眠れる……)
眠れるわけがない、湖に沈めた恋人が浮かんでくる夢を見るようになる。最初は水面に浮かんでいるが次は岸辺に立っている。いつか玄関に到着するとドアを叩く。
ドンドンドン、ドンドンドン
眼が覚めて眠れない、だから恋人を殺した現場へ向かう。薄暗い夕方の湖に恋人はガスがたまり浮袋のように水面に浮かんでいた。用意したスキーのピックを死体に突きさすと不眠症浮袋はバンと破裂してと顔一面に腐敗した内臓が付着した。
「眼が!眼がぁぁぁぁ」
足首がつかまれた、動けない俺は湖の岸辺で泣き叫ぶ。
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「それで自首したのか?」
「はい」
「死体なんてなかったぞ」
「夢なのか現実なのかわからない……」
取り調べ室で、不眠で真っ黒なクマを作った男が朦朧とした意識のまま恋人を殺した状況を自白し続けている。