ご免侍 九章 届かぬ想い(九話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。
九
「月華、俺と夫婦になるか」
「……そのつもりだよ」
「仕事はどうする」
「それは……私が芸者やるよ」
「江戸に住みたいんだな」
「別にどこでもいいけど」
目をふせる月華は、こうしてみると歳なりの子供にも感じる。目の前の男と一緒に居たい。
「栄は、俺を婿にしたいのか」
「そのつもりだ」
「俺は、藤原家を……そうか捨てるのか」
父親の藤原左衛門は、幕府を裏切った男だ。元の家に戻れるとは思えない。家を守ってくれる伊藤伝八やドブ板平助の事を思いだす。
(俺は覚悟を決めないといけない)
「俺は江戸にも戻れぬし、幕府から切腹を言い渡されるかもしれぬ」
少女達は黙り込む。
「村上主水の家に婿養子として入るならば、生き延びる可能性は高い」
自分で説明しても欺瞞だらけに感じる。ただ今だけは少女達がいがみ合う事は避けなくてはいけない。
「月華、俺に仕えてくれるか」
少女の顔は悲しそうに見えるし、嬉しそうにも見える。複雑な心境がからみあいながらも、納得した顔になる。
「判った、あんたに命をあげる」
その誓いの言葉は、何よりも崇高に感じた。自然と眼から涙が流れ落ちる。
「男が泣くな」
村上栄が、たもとから布をとりだすと顔をごしごしとこすりはじめた。なんか痛い。でもその痛さが嬉しいと感じる。
どたどたと廊下から足音が聞こえる。わざと音を立てているのだろう、元山賊の権三郎が、部屋に顔を出す。
「一馬様、文が届いています」
「島に文が……」
島にも飛脚から届けられた書状が来る場合もある。先の鉄甲船の攻撃で忘れ去られていた。
「これは……」
書状は水野琴音への手紙だった。送り主は大烏元目と書かれていた。