SS カレーパンが大好きな幼なじみはライバル【#ボケ学会のお題】(1300文字くらい)
夏休みの登校日に、校舎裏でクラスメイトの男子が座っている。すらりと伸びた手足は少女のようにほっそりとしてカレーパンを食べていた。
「陸人、ここでお昼なんだ」
「甜芽、もぐもぐ、頼みがあるんだ、もぐもぐ」
「食べてからでいいよ」
「うんうん」
すらっとした容姿は、スレンダーな女性にも感じる。
「最近、リョウスケと仲いいよね」
「ああ、そうね、映画とか見てる」
「ふーん」
ちらりちらりと私の方を見ている陸人は、私の事が好き?
(えーどうしよう、でも別にリョウスケとつきあってるわけじゃないからいいか)
陸人も幼なじみで彼の性格もよく知っている。やさしくてクラスの女子に人気だ。ふと妄想する。長身の彼とコメダでデザートのケーキを食べる。
「いかん、よだれが」
「おなかすいているなら、カレーパンあるよ」
「あんた何個もってるの」
「放課後用と帰り道で食べる用」
カロリー取り過ぎだ、若いから太らないだけだ。
「それで用ってなに?」
「デートしたい」
「えー、いいけどぉ」
「リョウスケも誘ってよ」
(彼は本気、帰り際で私に告白してリョウスケと別れさせるつもりね!)
リョウスケと陸人が、殴り合いになったら『私のために争わないで』と仲裁する覚悟を決める。
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「なんで水族館」
「リョウスケが好きなペンギンいるよ」
「まじか、よし見てくる」
海辺の水族館は、薄暗く淡い水色の巨大な水槽の中で魚がゆらめいている。ここで告白? 雰囲気はとても良い。そしてリョウスケと別れさせる流れを想像した。険悪な二人をなだめて仲直りさせる私。
「甜芽、真剣に聞いて欲しい」
「うん」
彼の中性的な横顔が水槽をみつめている。
「甜芽の事は好きだ」
「うん」
「それ以上に、リョウスケが好きだ」
「うん?」
「だから、リョウスケと別れてくれ、頼む」
「???、はぃ?」
「カレーパンあげるから」
「あははははっ」
陸人は、リョウスケが私とつきあっていると勘違いしていた。彼はとても真剣だ。
「男が男を好きとか変だし、リョウスケの気持ちもある。だけど甜芽と彼が仲良くしていると苦しい。カレーパンがのどにつまる」
「それは牛乳と一緒に食べないからでしょ」
私は怒っている? そんな事はない。リョウスケは好きだけど恋愛とは違う。でも涙が出てくる。そこに戻ってきたリョウスケが怒りのこぶしをふりあげた。
「おい、泣かしているんじゃねぇ」
「やめて、私のために争わないで!」
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リョウスケはどうやら、私が告白されて泣いたと勘違いしていた。やたらと慰めてくれたが、別の意味でつらかった。彼は彼なりに私が好きなのかもしれない。
「休日は、ごめんね」
「別にいいよ」
陸人には、私は恋人ではないとつげて元通りの関係だ。彼はそっとカレーパンを差し出す。私はビニール袋をびりびりと破いて、油まみれのカレーパンをやけ食いするお昼の思い出もきっと青春。