ご免侍 八章 海賊の娘(十五話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜が一馬を襲う。
十五
大瀑水竜が眼を細めて、一馬に向かって言い放つ。
「これでお前も終わりだ、海の底に沈め」
「まって」
露命月華が、ゆっくりと敵の見まもる中央に歩く。誰も手出しをしない。大瀑水竜も、何をしたいのか興味があるようだ。
「ここにいる一馬は、四鬼を、三人倒した」
指さす先に一馬がいる。みなが一馬を凝視する。
(本当か……)
(そういえば倒されたと噂が)
みながぼそぼそとつぶやくと水竜が怒鳴りつける。
「だからなんだ、この男もお前も神仏を恐れぬ罪人だ」
「嘘よ、罪を犯しているのはあんた」
今度は指を水竜に突きつける。
「あんたは、子供達をさらって虐待して兵にした。そしてろくでもない命令で殺した」
悲痛の叫びは事実だと誰もが知っている。自分たちも殺されるのが怖いから命令に従っているだけだ。兵の動揺は不信になり敵意に変わる。
「一騎打ちよ、一馬が勝ったらあんたたちの命は私が助ける」
誰も反対しない、みなが水竜を見上げる。
「このくずどもが、恩知らずな虫けらが」
大瀑水竜が、悪態をついて矢倉から甲板に飛び降りる。手に持った鎖打棒で一馬を攻撃した。
びゅっとうなりを上げて太い鎖が飛んでくると一馬はよけもせずに鬼切りで受けた。ぐるぐると腕と刀に巻き付いた鎖がぐいっと引かれると、刀がとられるはずだ……一馬の刀はかすかに音がしている、ビリビリと腕全体が震えると、鎖打棒から伸びた鎖がはじけ飛ぶ。
一馬は真っ正面から斬りかかる。水竜が、長い鉄の棒から目潰しを噴出させるが振動した鬼切りは、目潰しの液体をそのまま両脇に飛ばした。空気すら振動させて、目潰しが効かない。
「うむっ」
唐竹割りで大瀑水竜の頭めがけて刀を振り下ろす。鎖打棒で受けたが、ずるりと金属の棒をたたき切るとそのまま頭蓋骨から尻の先まで刃が貫通した。
まるで大根を縦に切ったかのように、真っ二つになると、血を吹き出しながら水竜は、甲板に左右に分かれる。