ご免侍 七章 鬼切り(七話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
七
いきなり怒鳴ると月華が走り去る、それとは行き違いに琴音が、同じように華やかな着物を見せに来る。
「お母様の形見だそうです」
「うん、似合ってる」
「これを来て殿様に会いましょうか」
うふふと笑う琴音は、これから贄にされる事を知らない。だが本当に贄にされるのかも判らない。
「琴音、母は大烏城で……」
迷う、言うべきなのか、言えば変わるのか、自分の勘違いなのか……
「――私は覚悟ができてます」
背中に固い棒を突っ込まれたように体が動かない、冷たさが全身に広がる。
「それは……本心か」
「父に言われました、お役目に選ばれたのは運命だと」
(運命……、本当に神仏がそれを望んだと……)
目の前の人が理不尽のように消える、そう感じただけでも力が入る。腕に持っている刀が震えるえると鋭い金属音が発生した。
「その刀が、鬼切りなのですね」
「……うむ、特別な作りらしい」
「とても強そうに見えますよ」
「刀があっても……」
琴音が、一馬にゆっくりと近づく。刀をもっている手にふれるとゆっくりと静まった。
「人はいつか……だから同じですよ」
「違う、そうじゃない……」
自分が駄々をこねている子供に感じる。世界には摂理がある、琴音はそれに従っただけだ。犠牲はどんな世界にも存在する。
(俺は、それに耐えられるのか……)
「私も、なんでと思いました。でも一馬に出会えた。もしこれが運命ならば、幸せです」
桃色の頬に涙が流れる、覚悟を決めたまなざしは一馬をうつす。一馬は鬼切りを落とすと、琴音を抱きしめる。そうでもしないと自分が壊れてしまう。
「……一馬、ダメです。お願いです」
琴音は、腕を一馬の背中に回すと抱きしめる。