ご免侍 十章 決戦の島(十八話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる、父親の藤原左衛門の過去が語られる。
十八
「絶対に許さん」
鬼山貞一が、目の前の大きな侍をにらみつける。桜姫はじっと正座をして頭を下げていた。
「父様、左衛門様は、お子が欲しいだけです」
「ならばどこぞの武家の娘と婚約すればよい」
両眼を見開いて私をにらみつける。それは殺気とは違う、まるで娘を苦しめるなと懇願するように感じた。
「どうぞお許しください」
父親に頭を下げて頼み込む、半刻も頭を下げていると、しびれを切らしたように鬼山貞一が怒鳴る。
「ならば勝負だ」
「……」
刀鍛治が侍と戦う、気がふれたように思うが鬼山貞一は、かなりの腕前に感じる。そして彼が持ち出した刀は、大きな山刀に見えた。
「鬼切り」
刀の名前だろうか、それだけを言うと彼と対峙する。向き合うと刀の異様さが目についた、まるで鬼が使うような巨大な包丁。そして重く感じるが刀鍛治は力仕事だ、何刻も重い大槌をふるう。腕力は桁外れに強く、そこらの侍よりも力はある。
鬼山貞一が、ずいっと踏み込んでくるところを寸止めで籠手に刀を打ち込んだが、跳ね飛ばされた。強く握っていなかったら太刀は彼方に消えていた。そのまま貞一は臆することもなく鬼切りを突き入れる。
(これは真剣勝負だ)
それは生死をかけた決闘と同じ。私の中で何かかが切り替わり、大太刀が鬼山貞一の片目を切り裂くまで何合も打ちあった。
「父様」
桜の絶叫で我に返る。貞一は、顔から血を流しながら片膝をついていた。じりじりと暑い、この日を忘れない。無実の人間を切った私は激しい罪悪感で苦しんだ。