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SS 先輩との帰り道、二人ともずっと黙っていた。僕の手には、突き返されたラブレター。 #ストーリーの種

※性的な表現あります

一年の頃に一つ上の先輩が気になる。写真部の部長の井原さんはロングストレートの生徒だ。一眼レフを持ち真剣にフィンダーを見る先輩はプロカメラマンのような錯覚も覚える。
「相田君はCanonなのね」
先輩はSONYの最新型を使う。今ではレンズ式のカメラメーカーは勢いが無い。新しい業種に参集した会社が性能を上げている。頭も良くて理知的な先輩と部活動で一緒に居るだけで幸せと感じていた。たまに先輩と一緒に帰る時もある。僕はそれがとても楽しみだ。

その日の帰り道では先輩は憂鬱そうに見える。
「どうしました先輩」
少し後ろを歩く僕は、斜め後ろから先輩の顔を見ている。彼女は眉をひそめながら考え事をしている。
「ん? ううん別に…… でも…… 告白されたの」

体の中心に重く何かが入るような感覚が来る。そしてドキドキする。悪い知らせを聞いた時に感じる焦燥感。
「先輩は その人は ……好きなんですか」
好きと言われた時の衝撃に備える。自分を騙す準備をする。何を言われても平気と思え。

「んー どうなのかな 好き?なのかも でもわからない」
くるりとふりむくと僕を見る。
「好きと言われたのは嬉しい 選ばれるって勝った気になるでしょ?」
選ばれた事が無い僕は理解できない。

「でもね 違うのよ 私は選びたい……」
その日は駅につくまで、二人とも無言だった。

僕は二年になり部活動を見る側になる。先輩は三年でもう部活動には来ない。後輩の面倒を見ながら写真を撮る。写真は好きなので、部活動は充実していたと思う。先輩は彼氏と少しだけ付き合って別れたようだ。詳しくは解らない。自分から情報を遮断していた。

部活動の写真が地方のコンクールで選ばれると先輩が見に来てくれる。
「この風景写真は良いんじゃないの?」
僕は素直に嬉しかった。先輩は卒業間際で時間があるという。僕は勇気を出してデートに誘ってみる。先輩は面白そうに僕を見ると了解してくれた。

先輩とあちこち回りながら昼過ぎに僕は手紙を渡す決心をする。気持ちだけでも伝えたい。純粋に好きと知ってもらいたい。それだけだ。先輩との帰り道、二人ともずっと黙っていた。僕の手には、突き返されたラブレター。結果は判っていた。先輩は手紙を見ないで僕に返した。

でも気分は悪くない。もう結果を知っていたからかもしれない。先輩は強い人だ。恋人がいらないのだろう。
「ねぇ このまま私の家に来て」
井原さんは僕の指先に触れる。

家には誰も居ないらしい。僕は井原さんの部屋に入ると
「脱いで」
と言われた。

井原さんはカメラを持つと僕に向ける。僕は裸になる。井原さんは時間をかけて写真を撮り続ける。僕は……我慢が出来なかった。井原さん笑いもせずに、その部分を撮り続ける。真剣な表情で僕を記録する。

「私はあなたを選ぶ」
カメラを置くと井原さんは僕を優しく抱きしめる。
「相田君 私の写真もお願いね……」

終わり

二人02



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