ご免侍 八章 海賊の娘(二十一話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
二十二
「父上、どのようにして、ここに」
「隠密頭の天狼から、探すように頼まれた」
伊豆の湯治場で、祖父の藤原一龍斎と体を休めている筈だったが……天狼には、今の現状を報告をしていない。
「こ……これには、わけがありまして、祖父も賊に倒されて……」
「それはもう、鬼山貞一殿から話を聞いた」
「は……はい」
「お前は江戸に戻れ」
「え……」
六尺を超す巨体は、体の幅も広くまるで鬼のようにも見える。その迫力は、とても人に思えない。
「――それはできません、私が琴音を連れていかねば、なりません」
「お前の力では無理だ」
ぐっと息がつまる。父親は絶対だ。あらがう事が難しい……
「父上、天狼殿は、散華衆の仲間かもしれません」
「なぜ、そう思う」
「水野琴音を探していました」
天狼が、探す理由。それは国のために捧げられる娘が大事だからだ。探して散華衆に引き渡す。それが幕府の命令だろう。
「……それも一理あるな」
「ええ、琴音を自由にするためには、散華衆を潰さねばなりません」
「お前に、それができるのか」
「……それは、当主の大烏元目を倒せば終わります」
一馬は自分の言葉を文字通りに信じてはいなかった。ただイケニエを出す理由が国のためといいながらも、居るか居ないか判らない神仏に捧げる命令をしているのは、ふぬけた当主だ。天照僧正の言いなりで、本当の目的すらもあやふやに思える。
(何も考えずに、無能な当主が、ただイケニエを神仏にささげているだけだ)
母も、琴音も、誰かのために自分を捧げるのは当然だと考えた。
(馬鹿げている)