見出し画像

SS 月が割れている。#ストーリーの種

月が割れている。半月を見るとそう感じる。まるで片方が割れて消えている。

「ねぇどうしたの?」
姉が私を見る。一卵性双生児の私は姉とそっくりだ。母親もたまに間違う。私は私と同じ人間が常に一緒に居るのに違和感が無い。二人で一人。姉が恋人を持つと私は初めて、個人として姉を見ている事に気がつく。

「浩二さんとはいつ会うの?」
姉は顔をほころばせると休みの日に会うと笑う。私がつまらなさそうにしていると
「すぐにあなたも好きな人が出来るわ」
勝者の発想と思う。姉は選ばれた、私は選ばれない。なにか鬱屈した感情がある。

休日に姉がでかけると私も街に出る。ぶらぶらと街を見回る。夕方に帰ろうとするとナンパされた。私は…最初はあしらっていたが、手を握られてホテルに行く頃にはどうでも良くなる。彼は私の体を求めている、それだけで私は満足していた。

気がつくと写真を撮られた。
「やめて」
私が怒ると彼は笑いながら記念だと言うだけで写真は消さない。私は怒りで何も考えられない、仕度すると家に戻る。

何日かすると姉の様子がおかしい。姉は悲しそうに部屋で泣いてばかりだ。母が聞くと浩二と別れたと言う。浮気しているとなじられた。誤解は解けずに縁が切れた。

私は姉を慰める。私達はまた一人になる。私と姉は仲良しだ。

学校を卒業して社会人になる。別々の会社に勤めるが姉はなぜか一流企業に就職できた。私は無職だ。何が違うのか判らない。姉は会社の同僚と結婚の約束をしたと家族に報告する。

「彼は出世するから結婚してと…」
幸せそうな姉を見ると私はまた不満に感じる。同じ人間なのに姉だけが得をする。

姉は同僚を連れてくる。
「石井です」
私が彼と出会うとびっくりする。同じ顔が二人並ぶ。彼はとても嬉しそうに私と話をしてくれた。姉さんと同じだね、姉さんみたいに可愛い。私も石井さんが好きになる。

私はホテル街で人を待つ。客が来たら写真を撮らせる。私は客にそれをみんなに見せてと伝えた。

「どうして……みんな私を嫌いになる」
石井と別れると姉は引きこもる。会社も辞めて同じ無職だ。姉と私は同じだ。これが正しい。姉は違った。私の事を別の人間として見ていた。姉は私を置いて自殺をした。

月は半分のままだ、いつしか満月になる。私の中では半分のままだ。私は客に抱かれながら、鏡に映る姉を見る。姉さんはきれい、とても嬉しそうに抱かれている。

終わり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?