ご免侍 七章 鬼切り(五話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。
五
「わしの娘の桜はやさしかった。それがあんな大男の嫁になるとかまったく許せん……と」
隻眼の鬼山貞一は、一馬に刀を見せながら、懐かしむように孫を見た。
「母はどんな人でしたか……」
「そうじゃな、強情な所もあったな。わしが結婚に反対しても絶対に折れなかった。わしが作った刀と同じだ」
嬉しそうに笑う鬼山貞一は、一馬をひさしぶりに会いに来た孫のように接した。
「……母が死んだ理由を知りません」
「そうか、じじいは言わないか」
「……」
「桜は京に上って、贄にされたんじゃ」
「……そんな馬鹿な」
怒りよりも激しい感情、それは恨みに近い。なぜ母がと思うと全身の筋肉に力が入る。
「なんでも、ダキニ天への人身御供と聞いた」
「……なんでそんな」
確かに今でも洪水を静めるために龍神への人身御供の話があるが、そんな事は今では行われずに、人形などを代わりにしている。そもそもが本当に龍神がいるならば、人を与えたところで気が変わるとは思えない。
(馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な)
ぶるぶると腕が震えると、持っている鬼切りも振動する。腹の底に響くような低音が発生していた。
「鬼啼きじゃな、それでどんな刃でも切れるぞ」
「……止められなかったのですか」
「……それはわしには判らん、だがお前の父や祖父を恨んでも意味はない」
「なぜです」
「桜が自分で決めたんじゃよ、自分が日本を救うと決めたんじゃ……」
涙をにじませると、鬼山貞一は目頭をぬぐう。
(母は、なにかの神にささげられたのか……)
納得はできない、できないが母が決めたと言われると、誰もうらめない。
「確か、大烏城でささげられたと聞いたな……」
一馬は、怒りに震える。水野琴音の笑う顔が浮かぶ。