
ご免侍 八章 海賊の娘(九話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。
九
「娘を探せ、名は琴音」
やや太った体の男が船から下りてくる。一馬はどこかで出会った記憶がある。そうだ忍者の露命月華と戦っていた男だ。
手下が二十人ばかり浜に降りてくる。一馬はもう後先を考えていない。無心のまま浜を進んで敵に突っ込んでいた。
(あの男を倒さねば)
無我の境地は、周囲が見えないわけではない。思考をせずに状況判断ができる即応性のある状態だ。
油断している敵を鬼切りで斬りまくる。刃にあたるとその瞬間に血管に振動が走り、血を噴き出させる。斬ると言うよりも破裂させる近いかもしれない。
敵がたちまち潰走するが、太った男だけは動かない。
「お前が居るなら、水野琴音もいるな」
「なぜそれが判る」
にやりと笑うと太った男は名乗りをあげた。
「散華衆の四鬼、大瀑水竜」
手に持った鎖打棒は、鉄の棒の先に鎖と分銅がついている。ぐるぐると回しながら近づいてきた。
(当たれば骨も折れる)
鎖は頑丈で切れそうに見えない、ふいに大瀑水竜が、長い鉄の棒を一馬に向けると、水が吹き出る。あわてて着物のそでで受けると、刺激臭がした。
(……目潰しまであるのか)
そでから染みた液体は、強い刺激でくしゃみがでる。唐辛子だろうか、やたらと眼にしみた。
「お前も生かしておけと言われた、だが戦いの中だ。なにが起きるかわからない」
大瀑水竜が肉薄すると、腕をぶんとふって鎖を振り上げる。だが接近戦ならば勝てる。一馬は縮地の法で突っ込んだ。
とたんに霧のように液体が吹き出た、先ほどよりも細かく範囲が広い。眼に傷みが走るともう見えない。
(油断した)
横にずれるように転がると、上から分銅が叩きつけられた。激痛が走る、脇腹はねじれるように痛む。
