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SS 人魚【#水槽のうんこ】 #爪毛の挑戦状

 地下の水槽は汚れてやすいので浄化じょうか装置の稼働だけではなく塩素の錠剤を入れる。白い錠剤を入れるとぶくぶくと泡を立てた。うんこをするので浄化のためだ。

「ちょっと苦しいけど我慢してくれよ」

 人魚が顔を出した口をパクパクさせている。この施設では彼女たちを実験のために捕獲して閉じ込めていた。人魚が顔を出して俺に話しかける。

「オサカナアル?」
「あるよ」

 バケツからさばをまるごと投げると手で受け取って食べ始めた。人の言葉を理解して真似る事ができる人魚は小学生くらいの知能はある。純粋無垢じゅんすいむくだが愚かだ。研究員が地下に降りてくる。

「実験体01を出してくれ」
「わかりました……」

 数人いる人魚は番号で呼ばれている。人魚同士は名前ではなく生きている年数で識別するらしいが人の言葉では表現できない。

「一番若い子、来てくれ」

 呼ぶと実験体01が嬉しそうに近づいてきた。頭をなでて水槽から引き上げる。人魚を運べる車椅子に乗せると連れて行かれた。

「イツマデ?」
「イツカエレルノ?」

 人魚が寄ってくると飼育員の俺に聞いてくる。俺だってわからない。高額のバイトは闇バイトにも感じたが政府機関に所属していた。厳しい性格テストに合格すると、情報漏洩じょうほうろうえいは刑事罰の対象になることを納得の上でサインした。

(まさか人魚とは……)

 現実離れした実験は非合法で秘密にされている。人魚が実在したなんて誰も知らない。研究員が戻ってきた。

「……水槽に戻せ」

 実験体01は、車椅子でぐったりとしていた。抱きかかえて水槽に戻すと仲間の人魚が介抱かいほうしている。

「何をしたんです……」
「お前には関係ない」
「はははっ……」

 乾いた笑いしかでない、研究員達は何をしているんだとも思うが、動物実験ならば文句を言うやつはだれもいない……人魚には人権がない。

「タスケテ」
「タスケテ、タスケテ」

 人魚達が俺の腕を引っ張る、俺は泣きたくなる。無力な俺は人魚達を逃がす事ができない。

「俺は何もできないんだ」
「チガウヨ、デキルヨ」

 口がとても大きく開くと、尖った牙が見えた。彼女らは俺をむさぼり食った。腕を食う、足を食う、腹を食う、血まみれの腸を食いちぎる。プールの水が赤く汚れてしまう。

「おい、つぎの実験体だ」

 研究員がまた地下室に降りてくると、俺を食った事で滋養じようを得た人魚は足を作りだし、水槽から出て走りだす。研究員が絶望の悲鳴をあげた。

「やめろぉぉぉぉぉ!」

 バリバリ、ムシャムシャ、研究員の頭を割って脳みそを吸いつくす。新たな滋養じようを得ると人魚達は水槽に排泄はいせつしてうんこまみれにした。俺もうんこだ。水槽のうんこだ。

「オイシカッタヨ、アリガトウネ」

 俺は水面にうんこになって浮かびながら、彼女たちがきっと故郷に戻れると確信する。俺はうんこだ、うんこで満足だ。

#爪毛の挑戦状
#水槽のうんこ
#創作大賞2024
#ホラー小説部門


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