ご免侍 十章 決戦の島(十一話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆のもう一隻の鉄甲船が、襲いかかる。船は沈み助けられたが、敵に捕らえられた。
十一
薄く朝日が入ってくる。粗末な小屋は牢獄と呼べるしろものではない、一馬は起き上がると喉が渇いている。だが水を探すが水桶はない。
(これは、なかなかつらいな)
しばらく座っていると引き戸が開かれた。
「大烏元目様がお呼びだ」
「水はあるか」
槍をもった青年達は、確かに修練を積んではいるが素人にしか見えない。青年は杓に入れた水をもってきたのでゴグゴグと飲み干す。
青年達に案内をされて、大きな木製の門を通る。城の内部は、戦えるような作りではなく、砦に近い印象だ。いくつかの門を通り、玄関に上がって部屋に通される。大広間は畳で三十畳くらいはある大きな部屋だった、正面には観音が狐の背に乗っている仏像が置かれていた。
「荼枳尼天です」
仏像のまえに大烏元目が座っている。男装した姿は、男のようにも見えるが琴音だ。
「父は来るのか」
「今は旅支度でお忙しいようです」
「どこかに行くのか」
「長門国壇ノ浦」
安徳天皇が入水した場所だ。
「そこに行ってどうする」
「贄をささげます」
「琴音、死ぬつもりか」
「いえ、怨霊を鎮めるためです」
「死者を復活させて京に上るためではないのか」
「そんな……事はありません」
琴音は、驚いたような顔をする。
「琴音、聞いてくれ。悪霊が居るというならば、無念をもって死んだ人間は、そこら中にいる。」
「……」
「みながみな、怨霊になるならば、どれほどの生きた人間を贄にしなければいけない」
「でも、とても大事なお役目です」
琴音を説得するのも難しい。視界がかすむ、ぐらぐらと頭がゆれるような錯覚がある。
(……視界が歪む……なにかの術か)
荼枳尼天の菩薩が笑っている。世界が極彩色に染まると一馬は畳の上に突っ伏した。