ご免侍 八章 海賊の娘(一話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。
一
一馬は、大海原を見たのは初めてだ。今は風の乗って弁才船が快走しているが、当初は船酔いで動けなかった。
「このまま大坂に行き、船を乗り換える」
「乗り換えてどうします」
「仇討ちするんじゃろ」
じろりと隻眼の鬼山貞一が、孫の一馬をにらむ。
(そうか、仇討ちか……)
母と祖父の仇討ち……、だが相手がそれぞれ違う。祖父は、月華の兄である露命臥竜に倒された。
(兄を殺されて月華が、どう思うか)
血のつながりはないが兄として、また体の関係をもった恋人を殺されて平気なのか……、母親の場合は、自ら進んでイケニエとして死んだ。恨むべき相手が誰かのかわからない。そして、水野琴音も、それを受け入れてイケニエとなろうとしているように思える。
(琴音は、父の遺言に従っているだけだ)
「むずかしいです」
「小難しい事を考えておるのか、大丈夫だ。わしに考えがある」
鬼山貞一が邪悪な笑みを浮かべる。祖父の藤原一龍斎とは、別の意味で強い。行動力がケタ外れに高いのだ。
仲間のところにもどるとみなが横になっている。強い船酔いで動けない。月華が、吐くモノもないのに小さな桶を股にはさんで、げっそりした顔だ。
「一馬、きぼちわるい」
「水を飲まないと倒れるぞ」
月華の額に手をあてるとやや熱がある。
「あと何日乗ってるの」
「甲板に出て、水平線を見ているとなおるぞ」
「立てない」
見ていると月華も、ふらふらなので甲板にあげるのは危険に思える。海に落ちでもしたら助けられない。
「あと一日もしないと思う」
「昨日も言ってたよね」
風を受けて進む船なので、風が止まれば進まない、そして潮の流れが無いと進まないし黒潮とは逆方向なのでむずかしい。