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SS 男のたこ焼き勝負【避難警報&最終形態&優勝】三題噺枠

「俺は、まだ負けていない……」
「未熟者が、百年早い」
 怒号と共に俺の親父が、たこ焼き器の上のタコ焼きをひっくり返す。具材への熱の与え方が絶妙だ。焼き加減を天性の感で見抜く、焼き上がりを口に入れた時の具材同士の熱の与え方が神業。

「お前は、そのAIタコ焼き機に頼りすぎだ!」
 親父は才能を越えて暗黙知の世界でタコを焼く。膨大な情報を自ら取り込み理屈で考える前に、最適解のタコ焼きを作る。

 俺はそれを機械に学習させる。このアーマードタコ焼きスーツだ。これさえあれば誰もが天才的な味のタコ焼き店を開店できる。親父のやり方では、一部の客にしか味を与えられない。

「お………俺はみんなに、この味を知ってもらうんだ!」
 スーツは最終形態に変形した、腕を八本出す。まさにタコ。タコの鬼となる。腕を高速回転させる。遠心力を利用して、たこ焼きを真円に近づける。真円こそ焼き加減を均一にできる最高の形だ。

「必殺!、円月蛸八景」
 八本の手で大量のタコ焼きを作成する。その量は凄まじい。試合場の調理台の上を埋め尽くすとタコ焼きが客席にも飛び散り始めた。

「熱い!」
「これは美味い」
 観客席がパニックになると避難警報が出される。客が逃げ始めた。

「この大馬鹿者が、客に食い物を投げつける料理人がいるか!」
 親父は俺に近づくと顔面にパンチを叩き込む。俺はぶっとびながらアーマードタコ焼きスーツは爆散した。八本の腕は散らばり砕ける。

「勝者は…………」
 審判が優勝者の親父の顔を見るが首を横にふる。親父は俺のたこ焼きを爪楊枝で刺して口に運ぶ。もふもふ、もぐもぐ、ごっくん。

「タコへの熱が足りん、腕を振り回す事でタコ焼きを冷ましたな………」
 俺の負けだ、『真円』へのこだわりが敗北を招く。頭を下げている俺に、親父が近づくと肩に手を置く。

「ふん、熱を逃がさないように工夫しろ」
 俺は親父を見る。親父は俺を見る。真の料理人同士の心が通い合う。母親が俺たちに近寄ると、会場の惨状を指さす。鬼の形相だ。

「片付けて!」
「はい!」

親父と俺は会場の掃除を始めた。

終わり


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