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SS タイムスリップアレルギー #爪毛の挑戦状

 気がつくとタイムスリップをしている。医者からは一種の記憶障害と診断された。実際に経験しても、実体験をしたように感じない。

「タイムスリップアレルギーですね」
「なんでそんな事が……」
「記憶の連続性が希薄に感じる、忘れっぽいと考えてください」

 精神科を出て薬局で薬をもらう。記憶喪失とは異なり、思いだせるのに他人事だ。夜に寝て、朝に起きると三日くらい経過している。

「昨日は……計画書を作ってたか……」

 会社で仕事をしていても、仕事の内容は、覚えているのに仕事をした実感がない。だから常に夢のように感じる。仕事仲間の女性が近づいてくる。

「先輩、また飲みにいきましょう」

 自分は後輩の職場の女子とつきあっているらしいが、他人の恋愛と同じだ。何回かホテルやマンションで体を重ねているのに、希薄に感じる。

「先輩はクールで格好イイ」

 情を感じないのでどこか他人行儀でも、逆に信頼感につながっていた。完全に誤解だ。

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 目が覚めると体が重い。

「あなた起きたの?」

 後輩だ、一夜を過ごしたのか……彼女の顔は老けている。まるで何十年も連れ添った妻のような……

「子供を車で送ってね」

 記憶を探ると結婚して何十年も経過していた、子供は小学生だった。

(一気に飛ぶのか……)

 それからは朝に起きるたびに加速度的にタイムスリップをする。三回目で自分の死期間際だった……、孫や妻が心配そうに見ている。彼女らを幸せにした記憶は残っているが実感はない。

(なにか物足りないが、かまわないか……)

 俺は幸せに死ねる、死の苦しみもすぐ終わる。血圧が下がると眠るように死ねた。

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「目覚めましたか……」

 小学生の子供がゆっくりと目を覚ます。ダィジェストで人生を学習できる高度な精神暗示マシーンで、彼はこれからの人生に失敗しないように追体験していた、騙された脳は一生分の苦労を頭に刻み込む。政府の新しい教育装置は、子供達が幸せな家庭を作れるように手助けした。

「えええ、とても気分がいいです、もう結婚しなくても幸せです……」

 彼は老成した目で達観している。

#爪毛の挑戦状
#SF
#小説

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