ご免侍 七章 鬼切り(十五話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
十五
琴音と夫婦になる、静かな武家屋敷で穏やかに暮らす。いつか子供が出来て、その子供に自分が剣を教える。
白昼夢のように、その光景が見える。腹に鉄貫が食い込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ」
「これは、もう終わりですな」
崩れるように座り込む、口からよだれが大量に流れおちる。猛烈な嘔吐感が来ると腹の中を戻してしまう。目まいにも似てぐるぐると世界が回る。
(俺は、琴音を……)
薄れる意識の中で頭を地面につけて倒れた。どこかで誰かが泣いているような……そんな声が聞こえる。頬を思いっきり叩かれていた、ジンジンと頬が痛い。
「馬鹿、一馬」
「月華、そんなに叩くと」
「おっさんうるさい」
ベチベチと叩かれまくるとやっと周囲が見えてきた。月華が手を上げて叩いていた。そばで、山賊の権三郎が、その手を止めようとしている。そして、琴音が泣いていた。
「琴音、無事だったのか」
「あたしが取り返したんだよ」
兄の露命臥竜は、深手では無いがそれなりに出血していた。月華は、そんな兄に容赦なく攻撃を加えつつ隙をみて、琴音を連れて逃げてきた。
「金鬼は、どうした……」
「月華を見たら逃げました」
形勢不利と感じたのか、あっさりと一馬を置き去りにして逃げ出した。
(あやつのいう、俺と琴音を幸せに暮らさせたいのは誰なんだ……)
権三郎に助けられながら、湯治場まで戻るとお仙と雄呂血丸が藤原一龍斎を弔っていた。
「一馬殿、大丈夫でしたか、琴音殿を助けられましたか」
雄呂血丸が一馬を祖父の近くに座らせる。
祖父の安らかな顔は、まだ生きているようにも感じるが、やはり死体特有の命の気配が無くなっている。
(お爺々様……私はまだ弱い……)
大粒の涙を流しながら、どうすべきか迷っていた。