ご免侍 七章 鬼切り(二十話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
二十
一馬も殺気を感じた、背後からの殺気は縮地の法で前方に飛んで避ける。
散華衆の四鬼、金鬼が、回し蹴りをはなっていた。
金鬼の周りには、道着をつけて十名ばかりの若い男達が並んでいる。
(ぬかった、用心に見張りを立てていなかった)
葬儀のいそがしさと、一馬自身の気力が回復していないせいで、油断をしていた。金鬼は、拳につけた鉄貫を見せながら少しずつ近寄る。
「さぁ、私たちと行きましょう、そこの裏切り者と一緒に」
「なぜ、即座に俺を殺さなかった」
(時を稼がないと……)
焦りながらも若い男達には、勝てると算段できた。ただ金鬼は、桁違いの技量を持っている、無刀で一馬と対等に渡りあえている。
(いや、あやつは別の思惑があって、俺を殺さないのでは……)
「本当に、水野琴音様は殺しませんよ」
「なぜだ」
「極上の贄を生むためです」
「なにを世迷い言を……」
いっせいに若い男達が一馬に襲いかかる。体を低くして、足を取ろうとするもの、腕を狙って突撃してくるもの、明らかに捕縛のための行動だ。
鬼切りを抜くと同時に、刀が振動する。戦闘の空気に共感するようにビリビリと震える。
(なんて扱いにくいんだ)
腕力で押さえても止まらない、振動する刃先は左右にゆれる。突っ込んできた男に刃先が触れると血しぶきが上がった。
(なんだこの刀は……)
斬るのではなく触れるだけで、男達は血まみれになり倒れる。共振していると一馬には判らない、人間の肉を切り裂く周波数で刀は振動をしていた。触れれば皮膚が裂けて飛び散る。
次々と十名ばかりの若い男をやっと倒して、金鬼に対峙すると、森の中からまた十名の敵が現れる。
(どれだけの敵がいる)