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SS チクタク水平さん #毎週ショートショートnoteとは無関係です

 夕暮れの曇天は重苦しい湿気を感じる。洋館の部屋にうずくまるように、男が椅子に座っている。目の前の円筒形の物体を見ながら何やらつぶやいている。

「ふん! 文明の利器と言ってもこの程度だ」

 部屋の柱時計はゆっくりと振り子を動かしている、チクタクチクタク、秒針が病的にうるさく感じた。男は夢想する、水平線の彼方に大きな時計をイメージする。

 駅前にある丸く大きな時計だ。チクタクチクタク動いている。眼をつむりながら時計を意識する、時間は大事だ。時間がすべてだ、その大きな時計に手足が生えると手を上げて挨拶する。そして空間を走り回る。

 チクタク水平さん、チクタク垂直さん、縦横無尽に時計が動き回る。男は疲れたように眼を開いた。

「三分か……」

 カップ麺の蓋をべりべりと剥がして、ヌードル用のフォークで食べる。手に入れるのが難しい、みそきん濃厚味噌ラーメンカップ麺(1700円)だ。

「普通のカップ麺と変わらん……」

 空のカップ麺をゴミ箱に力なく落とす。彼にはもう希望も絶望もない。明日から何を楽しみに生きていけばいいのだろう。いつのまにか雲が無くなり美しい夕日が見える。きっとどこかに俺の幸せがある、洋館から走り出した彼は、長い長い男坂を登り始めた。


長編に詰まってるからって、シュールな話を作ってるわけじゃないんだからね!


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