ご免侍 十章 決戦の島(三話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる。
三
「父とは、いつ出会ったんだ」
「江戸に来てからだね、御用金を盗むために岡っ引きを潰してたんだ」
(ドブ板平助が襲われた時か)
「それで抜け忍になったのか」
「私は江戸ならば逃げられると思った、まぎれこんでしまえばわからない」
「確かに人を隠すなら人が多い場所がいいな」
「でも、あんたと出会った」
「……」
「まぬけ面した侍が私と酒を飲んで」
「ああ」
「殺すつもりだった」
「……」
「でもあんたの顔を見ていたら、その気が無くなったの」
「どうしてだ」
「子供みたいな顔してた」
顔が赤くなる。あの時は月華にベタ惚れしていた。いや今でも変わらない、自分より年齢が上のようにも見えるし、幼くも見える。表情がくるくると変わる少女。
「その後で、お仙さんと出会って、あんたの父親に頼まれた」
「なんて言われたんだ」
「お前を頼むってさ」
「……なんでだ」
「知らないよ、なんかあんたやたらと父親が心配している風だったね」
一馬は呆然とする。幼い頃から父親とは接触がほとんどない、修行も一通り教えられるた。あとは自力で道場に通ったり、自分で修行方法を考えた。
(確かに跡取りだから大事にされるのは、判るが……)
「なぁ、俺には判らない」
「だから聞けばいんじゃないの」
「聞いてもわからない、父上は何をしたいんだ」
「誰かのために犠牲になりたいんじゃないの」
「犠牲……」
「私が嫌な予感がしているのは、こんな国を壊したいんじゃないの」
「壊したい……」
そうだ父親は理不尽が理だと言った、だがもしそれが父が破壊したいものならば、幕府の転覆につながる。
「もしそうなれば、どうなる」
「また戦国時代に逆戻りね、民が飢えて子供達が死ぬ」
果てしない戦いが待っている。